管理会社に家賃の集金や送金を任せている場合、入居者が家賃を支払っていても、管理会社からオーナーへ送金されないトラブルが起こることがあります。
「家賃の入金が遅れている」「管理会社と連絡が取れない」「敷金や更新料も送金されていない」といった場合、単なる事務処理の遅れではなく、管理会社による流用・着服・倒産・持ち逃げの可能性も考えられます。
このようなとき、オーナーは感情的に対応する前に、契約書や送金履歴を確認し、証拠を整理したうえで、早めに弁護士へ相談することが重要です。特に敷金については、管理会社が持ち逃げした場合でも、賃貸借契約の内容によってはオーナーに入居者への返還義務が残る可能性があります。
管理会社による家賃持ち逃げとは、入居者から回収した家賃、敷金、礼金、更新料などを、管理会社がオーナーへ送金しないまま流用・着服するようなケースを指します。
管理会社に集金代行を依頼している場合、入居者は管理会社の口座へ家賃を振り込み、管理会社が手数料などを差し引いてオーナーへ送金するのが一般的です。しかし、入居者が支払済みであっても、管理会社側で送金が止まれば、オーナーには家賃収入が入りません。
オーナーから見ると「入居者の滞納」のように見えることもありますが、実際には入居者は支払済みで、管理会社が送金していない場合があります。そのため、まずは入居者の支払状況と、管理会社からの送金状況を分けて確認する必要があります。
また、被害は家賃だけに限りません。敷金、礼金、更新料、退去精算金などを管理会社が預かっている場合、それらも送金されないまま消失するおそれがあります。特に敷金は退去時の返還・原状回復費精算に関わるため、慎重な確認が必要です。
管理会社による家賃の未送金や預り金トラブルは、実際に報道・公表されている事例があります。ここでは、賃貸管理や不動産会社の金銭管理に関する代表的な事例を紹介します。
不動産会社に勤務し、マンション等の住民から支払われる家賃の管理を任されていた従業員が、数年にわたり家賃を横領していたとされる事例もあります。
弁護士事務所の解決事例によると、会社の経理体制がずさんであることに目を付け、住民から支払われた家賃を横領する行為を繰り返し、発覚時の横領額は1,000万円を超えていたとされています。
この事例からは、家賃の入金・送金を一人の担当者に任せきりにすると、不正が長期化し、被害額が大きくなるおそれがあることが分かります。
参照元:弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所「業務上横領罪で逮捕されるも不起訴を獲得」
https://mie-keijibengosi.com/kaiketsujirei-gyoumuzyououryouzai-taiho-hukiso/
いわゆる「かぼちゃの馬車」問題では、女性専用シェアハウスを展開していたスマートデイズが、オーナーに対するサブリース賃料の支払いを停止し、その後、民事再生手続の申請や破産に至りました。
東京商工リサーチの記事では、スマートデイズの民事再生手続が棄却されたことや、シェアハウスのサブリース業者から賃料支払い停止を通告されたという相談が複数寄せられていたことが紹介されています。
この事例は、典型的な「家賃を集金して持ち逃げした」ケースとは異なりますが、サブリース契約では、入居者からの実際の賃料収入と、オーナーへ支払う保証賃料のバランスが崩れると、賃料不払いに発展するリスクがあることを示しています。
参照元:東京商工リサーチ「スマートデイズ『破産へ』、関係者の反応」
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1189069_1527.html
愛媛県今治市では、不動産会社から経理業務を委託されていた人物が、管理していた会社口座から現金を引き出して着服したとして、業務上横領の疑いで逮捕された事例があります。
報道によると、取引先から「支払いがされていない」と連絡があったことで不正の疑いが表面化し、用途不明の出金が1,000万円を超える規模で確認されているともされています。
家賃そのものの持ち逃げ事例ではありませんが、不動産会社では家賃、敷金、礼金、修繕費、外注費など多くの入出金が発生するため、口座管理や支払い権限が一部の担当者に集中すると、不正に気づきにくくなることを示す事例です。
参照元:あいテレビ
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/itv/2412858
家賃の持ち逃げが疑われる場合、最初に確認すべきなのは、オーナーと管理会社の間の管理委託契約書です。家賃の集金方法、送金日、管理手数料、敷金・更新料の扱い、預り金の管理方法、契約解除条項、損害賠償条項などを確認しましょう。
次に、入居者との賃貸借契約書を確認します。特に重要なのは、契約上の貸主が誰か、敷金の差入先が誰になっているかです。管理会社が実務上敷金を預かっていたとしても、契約上の貸主がオーナーであれば、入居者からオーナーに敷金返還を求められる可能性があります。
サブリース契約の場合は、通常の管理委託契約とは責任関係が異なります。オーナーがサブリース会社へ物件を貸し、サブリース会社が入居者へ転貸している場合、入居者との直接の貸主はサブリース会社であることが多いため、サブリース契約書と転貸借契約書の両方を確認しましょう。
あわせて、管理会社への請求や法的手続きに備え、管理委託契約書、賃貸借契約書、送金明細、オーナー口座の入金履歴、収支報告書、入居者の支払記録、敷金や更新料の預り証、管理会社とのメール・チャット・電話メモ、未送金額の一覧表を整理します。
まずは管理会社に対し、未送金の理由と支払予定を確認します。電話だけで済ませず、メールや書面など、後から証拠として残る方法で連絡しましょう。確認すべき内容は、未送金の対象月、入居者からの受領状況、敷金・礼金・更新料の有無、送金予定日、遅延が発生している部屋番号などです。
管理会社が曖昧な回答しかしない、約束した送金日を過ぎても支払わない、連絡が取れないといった場合は、内容証明郵便で請求や契約解除の意思表示を行うことを検討します。内容証明郵便は、いつ、どのような文書を送ったかを証明できるため、後の交渉や裁判でも重要な資料になります。
また、管理会社の口座へ家賃を振り込ませ続けると被害が拡大するおそれがあります。未送金が明らかになった場合は、入居者へ新しい振込先、変更開始月、旧管理会社へ振り込まないこと、今後の問い合わせ先を案内しましょう。
ただし、入居者に対して「管理会社が横領した」「敷金は返せない」など、確認できていない内容を断定するのは避けるべきです。確定している事実と確認中の事項を分けて説明し、入居者の不安を抑えることが大切です。
管理会社が家賃を送金しない場合でも、すべてが直ちに刑事事件になるとは限りません。資金繰り悪化による債務不履行として扱われる場合もあります。一方で、入居者から受け取った家賃を渡す意思がないまま集金していた、預り金を別用途に流用していた、虚偽説明をしていたなどの事情があれば、詐欺や横領が問題になる可能性があります。
未送金額が大きい、複数月にわたり送金されていない、管理会社と連絡が取れない、敷金や更新料も消えている、他のオーナーにも被害が出ている場合は、早めに弁護士へ相談しましょう。弁護士に依頼すれば、内容証明郵便、交渉、損害賠償請求、支払督促、訴訟、仮差押え、刑事告訴の検討などを進められます。
警察へ相談する場合は、契約書、送金明細、入金履歴、管理会社とのやり取り、未送金額一覧などを持参し、事実関係を整理して説明できるようにしておきましょう。
持ち逃げされた家賃や敷金は、管理会社に請求できる可能性があります。ただし、実際に回収できるかは、管理会社の資力、証拠の有無、保証制度の利用可否によって大きく変わります。
管理会社が倒産していたり、資金が残っていなかったりする場合、裁判で勝っても全額回収できないことがあります。複数のオーナーや取引先が同時に請求している場合も、回収額が限られる可能性があります。そのため、異変に気づいた時点で早く動くことが重要です。
管理会社が宅地建物取引業者で保証協会に加入している場合、一定の範囲で弁済を受けられる可能性があります。また、日本賃貸住宅管理協会の預り金保証制度に加入している管理会社であれば、管理会社の倒産などによりオーナーへ引き渡されない預り金について、一定条件のもと保証対象になる可能性があります。
ただし、いずれの制度も万能ではありません。加入していなければ利用できず、保証上限、対象範囲、申請条件、必要書類、審査があります。制度を利用できるかどうかは、管理会社の登録状況・所属団体・契約内容を確認したうえで判断しましょう。
敷金については、管理会社が実際に預かっていたとしても、それだけでオーナーの返還義務がなくなるとは限りません。入居者との賃貸借契約上、貸主がオーナーである場合、入居者からオーナーへ敷金返還を求められる可能性があります。
退去時には、通常どおり原状回復費や未払賃料の有無を確認し、敷金から差し引く金額を整理します。管理会社の不正による損害を入居者に転嫁するような対応は、さらなるトラブルにつながります。入居者との精算と、管理会社への損害請求は分けて考えることが大切です。
現在の管理会社との契約を解除する場合は、管理委託契約書で契約期間、中途解約の可否、解約予告期間、即時解除事由、違約金、引き継ぎ義務を確認します。重大な契約違反がある場合でも、解除通知の出し方を誤ると反論される可能性があるため、トラブルが深刻な場合は弁護士に相談してから進めましょう。
新しい管理会社へ切り替える際は、賃貸借契約書、入居者情報、保証会社の契約情報、入金状況、滞納履歴、敷金情報、鍵、修繕履歴、設備情報、クレーム履歴、更新時期一覧などを引き継ぎます。旧管理会社が協力しない場合は、オーナーが保管している書類や入居者からの情報をもとに、管理台帳を再構築する必要があります。
家賃持ち逃げを防ぐには、管理会社を選ぶ段階で、賃貸住宅管理業者として登録されているか、家賃・敷金を分別管理しているか、送金サイクルや収支報告が明確か、預り金保証制度に加入しているかを確認しましょう。
賃貸住宅管理業法では、一定規模以上の賃貸住宅管理業者に登録が義務付けられており、登録業者には業務管理者の選任、分別管理、帳簿備付け、委託者への定期報告などが求められます。登録されていれば絶対に安全というわけではありませんが、管理体制を確認するうえで重要な判断材料になります。
また、オーナー自身も毎月の入金確認を怠らないことが大切です。予定日に送金されているか、金額に不足がないか、管理手数料が正しいか、敷金・礼金・更新料が反映されているかを確認しましょう。
管理会社に家賃を持ち逃げされた疑いがある場合は、まず契約書、送金履歴、入居者の支払状況、敷金や更新料の扱いを整理しましょう。そのうえで、管理会社へ書面で請求し、必要に応じて内容証明郵便、契約解除、弁護士相談、警察や関係機関への相談を検討します。
特に重要なのは、入居者対応と法的対応を並行して進めることです。入居者に新しい振込先や問い合わせ先を案内し、旧管理会社への振込を止めることで、被害拡大を防げます。
家賃持ち逃げは、対応が遅れるほど回収が難しくなる可能性があります。少しでも異変を感じたら、早めに証拠を整理し、専門家へ相談しましょう。
TonTon※:2025年08月時点・参照元:TonTon公式HP(https://tonton-inc.com/news/notice/3920)
日本財託(※1)2026年1月末時点の販売分入居率・参照元:日本財託公式HP(https://www.nihonzaitaku.co.jp/kanri/)
(※2)2026年2月5日調査時点・参照元:日本財託公式HP(https://www.nihonzaitaku.co.jp/kanri/service/knowhow/)
(※3)2026年2月5日調査時点・参照元:日本財託公式HP(https://www.nihonzaitaku.co.jp/kanri/service/resident/guarantee/)